研究総括 |
宮脇 敦史 理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー
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研究期間 (年度) |
2023 – 2030
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概要 | 本研究領域は、細胞制御の機構に関する操作と理解をインタラクティブに進めることにより、ライフサイエンスの幅広い分野にインパクトをもたらす技術革新の創出を目指します。
ここでは「細胞制御」における細胞を、個体や組織を構成する要素、または各種オルガネラから構成される集合システムと捉えます。10の6乗個以上の細胞をすり潰して生化学実験に供するような従来の解析手法に対して、近年のシングルセルオミクス解析およびバイオイメージング技術による時空間解析は、細胞個々のパーソナリティやインテグリティを尊重し、細胞制御機構に関するより詳細かつ多面的なデータをもたらしてくれています。こうしたデータ量の爆発的増大と歩調を合わせたかのように人工知能の基盤技術が広く伝播し、データ分析の高速化が実現しています。
ただしデータの量が増えても細胞制御機構の理解が深まるとは限りません。複雑なシステムを支配する因果関係を暴くには、ある特定の要素の働きを操作してシステム全体あるいは他の要素の振る舞いを調べることが有効です。そこで本研究領域は、技術開発の側に立って、細胞制御機構の操作(以降、細胞操作と略称)に焦点を合わせる方針をとります。解析に伴って必然的に起こる対象への操作を定量的に扱う必要を認識しつつ、対象を自在に操作する技術の開発を鋭意進めます。既存の技術に潜むノビシロを粘り強く追及することは大切であり、現在の細胞操作の中心的要素技術、たとえば、ゲノム編集や光・化学遺伝学を、最先端技術を駆使して改善すれば、精度向上や多様化の点で相応の進歩が達成されるでしょう。細胞操作を支援するハードウエアやソフトウエアも併せて開発する必要があるでしょう。異種技術とのクロスオーバーを網羅的に行うことで飛躍的進歩を起こす試みも大切です。一方で、全く新しい細胞操作のための要素技術をゼロから創り上げ、細胞制御機構の新局面を開拓する試みが必要です。
細胞は面白い謎をたくさんはらんでいます。細胞は、科学の常識で凝り固まった研究者を避けて、無邪気に接する研究者に心を許してその制御機構を開示してくれるのでしょう。細胞操作とは細胞を遊ぶことであると捉えていきます。参画研究者が失敗を恐れず細胞を遊びぬく環境を創りたいと思います。細胞遊びを巡って生まれる操作と理解のスパイラルが、領域の外とも相互作用しながら正に成長し、どこかでたとえ小さくても新しい渦を創ることを望みます。想定外の展開を積極的に取り込み、採択された各研究チームが設定目標を大胆に見直しながら研究を進めることで、領域自身もしなやかな成長を図ります。
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