ナノレベルの分解能と識別感度をもつイオンセンサの実現に向けた技術開発
研究期間 (年度) |
2015 –
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概要 | ●テーマの概要 半導体産業の分野では、ムーアの経験則によるトランジスタ微細化の限界が指摘され、微細化の極限追求と並行して多様化を指向した研究が行われています。その多様化の一つの方向として半導体デバイスとバイオ・化学との融合分野の研究領域が広がりつつあり、世界的に活発な研究が展開されています。半導体を用いたイオンセンサ(ISFET)の最初の研究は1970年にさかのぼり、その後実用化されて長らく汎用pHセンサとして使用されていましたが、2010年、ISFET型pHセンサを高密度にアレイ化したDNAシーケンサが製品化され、半導体とDNAを融合したシステムとして注目を集めました。半導体技術を用いることにより、小型、高密度集積化などの特長を持ったイオンセンサが実現され、この特長を最大に活かすことで新たな応用が拓けることが期待されます。 本研究開発テーマでは上記の背景、方向性に沿った研究領域において「ナノレベルの空間分解能と識別の感度を持つイオンセンサ」に関する研究を推進します。測定対象として試料中に均一に存在するイオンのほか、生体分子の反応や細胞の応答により増減するイオン、あるいは局所的に生成、消費されるイオンなども対象に含め、測定対象に適したデバイスの構造・材料、反応スキームに関する研究開発を推進します。 わが国の産業の強みであるエレクトロニクス、分析機器、化学、素材などの企業が特徴技術を持ち寄り、アカデミアと産業界の研究者が力を合わせて研究開発を行うことにより、医療・健康、生命科学、環境、食品、情報通信などの分野で革新的な機器・システムを創出し、この融合分野で学術、製品ともに国際競争力向上に繋がることが期待されます。 ●公募・選考・研究開発テーマ運営にあたってのPOの方針 本タイプはA-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)のステージIの比較的アーリーフェーズの研究開発ですが、本研究開発テーマでは新規なデバイス構造や動作原理の確認にとどまらず、市場性、提案技術の競争力などを含めて将来の製品化を見据えた応用研究を推進します。イオンセンサそのものは様々のタイプの製品が既に医療や環境計測分野で使用されています。半導体技術を用いる主な特長は小型、高密度集積化ですので、この特長を活かすことにより従来のイオンセンサでは実現できない、あるいは実現が難しい分野で使用可能なデバイス・シ
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ステムの開発が求められます。既に述べたISFETを利用したDNAシーケンサは100-1000万個のトランジスタを集積化したチップが用いられ、高スループット、低価格化を実現しています。このように半導体技術ならではの特長を活かした応用分野を見出すことが求められます。また、既にナノチューブ、ナノワイヤーを用いたイオンセンサ、化学センサが多数報告され、ナノレベルの空間分解能が実現されていますが、本研究開発テーマでは、社会的要請のある測定対象、将来の市場性のある測定対象、従来の方法では得られない情報など、測定対象の意義、実使用環境下での測定の信頼性なども考慮いたします。また、デバイス構造、チップレイアウトだけではなく、そのデバイスを用いて測定対象をどのように測定するのかなど、測定方法、プロトコルを含めた提案を期待します。 通常、半導体イオンセンサは半導体デバイス上に機能性分子あるいは機能性膜を形成して製作されます。pH感応膜は半導体プロセスと整合性の良い方法で形成されますが、他のイオンに対する感応膜の材料・形成方法は半導体プロセスと異なります。特にナノメータレベルの領域に形成する場合には、感応膜材料・形成方法の見直しと最適化が必要になることが予想されます。また、イオン感応膜を形成したISFETの電位ドリフト、及びそれに基づくイオン濃度測定の精度劣化の問題は過去学会などで議論されてきました。イオン感応膜の課題とともに、測定対象、測定方法にも関係する課題です。この分野の研究はデバイス開発に力点がおかれる場合がほとんどですが、信頼性が高く実際に使えるデバイス・システムを実現するためには、上記課題に対して取り組むことが求められます。 また、生体分子や細胞と組み合わせて、生体分子認識反応や細胞応答によるイオン濃度変化を検出する場合、反応場、センシング場の設計製作が重要となります。この分野もナノメータレベルのイオンセンサの可能性を追求し、応用範囲を拡張する上で重要な研究開発要素であると考えます。一細胞計測、細胞間相互作用解析、核酸解析などは、ナノメータレベルのイオンセンサの特長を活かせる分野であり、学術的な貢献も期待されます。非標識、リアルタイム、カイネティックス、局所解析など従来の方法では得られない情報が取得できる可能性があり、本融合分野の国際競争力向上に繋がることが期待されます。生体分子、細胞と組み合わせた応用で信頼性の高い結果を得るためには、信頼性の高いイオンセンサを開発する必要があることはいうまでもありません。 以上のようにナノレベルの空間分解能と識別の感度を持つイオンセンサを実現するためには、半導体分野の研究者のほかに、材料科学、電気化学、生物学などの分野の研究者が協力して、デバイス、システム、アプリケーション開発を進める必要があります。また、将来の製品のコンセプトや測定対象のターゲット、システム開発などに関して、アカデミアの研究者と産業界の研究者と十分に議論できる環境を作ることが求められます。バランスの良い研究体制の構築と実効性のある研究計画の作成が求められます。 なお、課題の実施にあたっては、研究開発チーム間の連携、情報共有を推進します。機密保持には配慮しつつ、課題間で成果などを可能な限り共有し、テーマとしての成果最大化を図ります。必要に応じて採択課題間の協力を要請しますので、対応していただきます。 隠す
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