概要 | 真菌であるCandia albicans(カンジダ菌)の義歯への付着は、義歯性口内炎や最悪の場合には肺炎を惹起させる。申請者は、高い抗真菌性と安全性・操作性を有する高付加型ポリリン酸(高分子ポリリン酸ナトリウム)に着目し、カンジダ菌とカンジダ菌が形成するバイオフィルムに対する高付加型ポリリン酸の抗真菌効果を評価し、高付加型ポリリン酸を義歯洗浄剤の成分として応用できるか否かを明らかにすることを目指した。高付加型ポリリン酸は鎖長(リン酸重合度)の大きさによって抗真菌効果が異なると予測されたことから、鎖長15,150,300の3種類のポリリン酸を3つの異なる濃度で用意し、生理食塩水(PBS)をコントロール、抗真菌薬のファンギソンをポジティブコントロールとして、コロニー形成の観察・測定と、PBSに対する残存真菌率などを指標にカンジダ菌に対する抗真菌効果を検討した。その結果、カンジダ菌に対して鎖長300のポリリン酸が他の鎖長と比べ、いずれの濃度においても残存真菌率がほぼ0%と極めて優れた抗真菌効果を示し、これは抗真菌薬であるファンギソンと同等であった。また、カンジダ菌は口腔内で浮遊しているのではなくバイオフィルムを形成して義歯に強固に付着していることから、カンジダ菌が形成するバイオフィルムに対する抗真菌効果も新たに計画して検討した。その結果、ファンギソンにはやや劣るものの、鎖長150のポリリン酸が最も優れた抗真菌効果を示した。これらの成果は鎖長300あるいは150のポリリン酸を用いる義歯洗浄剤の開発に明確な根拠を与える。ポリリン酸は各種抗菌性物質の抗菌効果を高める作用があることから、今後は抗菌薬ではない様々な抗菌物質と組み合わせることで、カンジダ菌バイオフィルムに対してもさらに高い抗真菌効果を発揮できると期待される。このポリリン酸は抗真菌薬ではないため、菌交代現象などを引き起こさず、安全で生体に優しく、高い抗真菌効果を有する画期的な義歯洗浄剤を開発できる可能性を秘めている。
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