概要 | 日本を含む東アジア地域においては、家族によるケア(介護や看護など)が重視されているために、いったん家族にケアが発生すると、家族の世話を日常的に担うケアラーは学業や仕事など、自分のライフチャンスを犠牲にせざるを得ず、ケアラーの社会的孤立・孤独を生じさせることになる。家族関係やケアの種別によっては、子ども・若者期であってもケアにかかわらざるを得ない(ヤングケアラー)。ケアラーの自己実現とケアニーズとの間の葛藤は深刻であり、社会的孤立・孤独のみならず虐待や自殺、殺人などの社会問題にもつながっている。ケアは社会的にも必要不可欠で重要な営為であるからこそ、ケアラーが抱える自己実現とケアとの間の葛藤は、単なる代替サービスの拡充だけでは解決しない。
本プロジェクトでは、ケアの代替という狭義のケアラー支援だけではなく、ケアと両立した自己実現(エンパワメント)を含む、広義のケアラー支援を拡充させることによって、ケアラーの社会的孤立・孤独を予防する包括的支援システムを開発する。具体的には、ケアとの距離を多様にデザインできる包括的なケアラー支援のあり方や、東アジアの家族主義的福祉政策の中で本取り組みをどのように位置づけるのかを検討する。また、ケアラーの葛藤支援を中核に据え、ニーズ発見を可能にする「感情シート」、ケアラーがライフチャンスとケアとのバランスを可視化できる「ライフチャンス・チャートシート」を開発する。さらに、初期親子関係において、親がケアと自己実現とのバランスを意識化するために、「かかわり指標」の改良に取り組む。そして、ケアラー支援を行っている団体・取り組みをネットワーク化する「ケアエンパワメント・プラットフォーム」を構築する。
本プロジェクトを通じて、人生において誰もがケアを受ける側にも担う側にもなり得るという視点から、ケアの社会的価値の転換を図り、命を支えるケアという営みを社会的に価値のあるものとして位置付ける「ケアリング・ソサイエティ」の実現により、社会的孤立・孤独の一次予防を目指す。
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